
ゆうき
2025年4月28日(月)深夜1:30、ショパン国際ピアノコンクール予備予選に進藤実優さんが登場しました。前回の2021年大会では第3次予選進出という実績を持つ進藤さん。今回もその実力を存分に発揮し、聴衆を魅了しました。
選んだピアノはスタインウェイ。多彩な音色と奥行きある響き、そして音楽への深い理解が随所に光るステージでした。
進藤実優さんのプログラム
- ノクターン 第8番 変ニ長調 Op.27-2
ロンド風の構成をもつ優雅なノクターン。装飾音と調性の移ろいが光る。 - スケルツォ 第2番 変ロ短調 Op.31
静けさと激情が交錯する名作。構成美と感情の起伏が見事に融合した傑作。 - マズルカ ロ長調 Op.56-1
転調の妙と舞曲リズムの交錯が生み出す、幻想的で軽快なマズルカ。 - エチュード 変イ長調 Op.10-10
重音と単音、異なるリズムの融合が求められる華やかな練習曲。 - エチュード イ短調 Op.25-11「木枯らし」
冒頭の静けさから一転、一気に木枯らしが吹き荒れる。高い技巧が求められる名曲。
曲目ごとのレビュー
ノクターン 第8番 変ニ長調 Op.27-2
優雅な旋律が特徴のこのノクターンでは、繊細で多彩な音色が印象的でした。呼吸と音楽が一体となった演奏で、細かなペダリングや和音の調和に対する深い意識が感じられます。苦悩、切なさ、美しさが溶け合った、感情豊かで奥深い演奏でした。
ノクターン 第8番 Op.27-2 変ニ長調 ― 装飾美と透明な響きに満ちたロンド風ノクターン
ノクターン唯一のロンド風形式を持ち、2つの主題(AとB)が交互に現れる構造が特徴。
A主題は甘美で繊細な単旋律が中心で、回を重ねるごとに装飾音が加わり、高音の輝きが際立っていく。
左手には分散和音の伴奏が全編にわたって用いられ、穏やかな流れを支える。
B主題では重音と転調を伴って音楽が高揚し、クライマックスではffまで達する力強さを見せる。
優美な外観の中に技巧と即興性が織り込まれ、ショパンならではの構成美が光る一曲である。
スケルツォ 第2番 変ロ短調 Op.31
2曲目に配置されたのは意外にもスケルツォ第2番。冒頭からエネルギッシュに始まり、旋律の歌い回しも自然かつ深みがありました。中間部では語りかけるような音色と表情の変化が聴かれ、終盤は劇的に盛り上がるクライマックス。ミスタッチが若干見られたものの、音楽の流れと構成力の高さで圧倒しました。
スケルツォ 第2番 Op.31 変ロ短調 ― 感情の起伏と構成美が交錯する名作
冒頭のユニゾンから問いかけるように始まり、緊張感と激情を孕んだ展開が印象的。
主題部では変二長調の華やかな旋律が軽快な伴奏にのせて現れ、ダイナミクスの対比が際立つ。
中間部はイ長調に転じ、シシリエンヌやワルツ風のリズムが繊細に重なり、静かな詩情を生む。
その後、主題は激しさを増して再現され、構造上もドラマティックなアーチを描く。
コーダでは冒頭の素材が熱を帯びて再現され、鮮烈な高音で終曲を迎える。
マズルカ ロ長調 Op.56-1
幻想的で舞曲的なリズムが特徴のこのマズルカでは、素朴な序奏と華やかな中間部の対比が見事でした。特に浮遊感ある響き、優雅で可愛らしいオベレク部分、そして終盤にかけての構成の巧みさが光っており、進藤さんの音色設計の巧妙さが感じられました。
マズルカ ロ長調 Op.56-1 ― 軽快な舞曲リズムと転調美が織りなす幻想的マズルカ
曖昧な和声と階段状の転調による序奏から、独特の浮遊感が立ち上がる。
素朴なマズル(ゆったりした三拍子)と、跳ねるオベレク(速い舞曲)の楽想が交錯する。
中間部では8分音符の細かな回転が風車のように輝き、舞踏感を高める。
再現部では二つの主題が融合し、リズムと旋律が錯綜する幻想的展開をみせる。
コーダでは調性が自在に移ろい、華やかなクライマックスへと雪崩れ込む。
舞曲小品を超えた、構成美と即興性が融合するスケールの大きな作品である。
エチュード 変イ長調 Op.10-10
華やかな技巧曲であるこのエチュードでは、厚みのある響きと急速なテンポの中に、舞い上がるような音楽の流れが生まれていました。他の出場者に比べて音の広がりが印象的で、進藤さん独自の解釈も織り交ぜられた、音楽性に富んだ演奏でした。
エチュード Op.10-10 変イ長調 ― 繊細な輝きと柔軟なコントロールを試す一曲
右手では6度の重音と単音が交互に現れ、上声と内声の流れを意識した表現が求められる。
左手は分散和音を滑らかに保ちつつ、legatissimoの指示に応じて柔軟な腕の使い方が必要。
2連音符と3連音符の組み合わせや跳躍の多い旋律が、軽やかな演奏感を生む。
中間部では転調が繰り返され、主題が再び華やかに戻ってくる構成となっている。
音色のコントロールとリズム感の両立が鍵で、ピアノ演奏の完成度が試される作品である。
エチュード イ短調 Op.25-11「木枯らし」
プログラムのラストを飾ったのは「木枯らし」。序奏は噛みしめるような表現で始まり、激しいテーマ部分では左手のソプラノ部分が際立ち、メロディの芯と繋がりがはっきりと描かれていたところ印象的でした。右手の精密なパッセージはもちろん、中間部の暗い表情や和声の移ろいも丁寧に描かれており、全体を通して非常に完成度の高い演奏でした。クライマックスも見事に決まり、会場からは「ブラボー!」の声も飛び出しました。
エチュード Op.25-11「木枯らし」――荒れ狂う風と詩情の対話
冒頭は静かに始まり、すぐに嵐のような右手のパッセージが舞い上がる。
左手は導入部の旋律を反復しながら、右手の細密な動きと印象的なコントラストを描き出す。
中間部では一時的に長調へと転じ、一旦嵐は弱まるが、すぐに荒れ狂うパッセージへ。
再びテンポと熱気が高まり、嵐のごときクライマックスへ突入。
技巧だけでなく、ダイナミクスと構造の奥行きを求められる一曲。
まとめ
進藤実優さんの演奏は、音色の豊かさ、構成力、感情表現のすべてにおいて高い水準に達していました。どの作品も深く考え抜かれた解釈とテクニックで支えられており、ショパンの多面的な魅力を存分に伝えてくれました。今回の予備予選でもその実力を再確認できる素晴らしいステージでした。
本大会出場決定!
2025年5月6日、進藤実優さんのショパン・コンクール本大会への出場が正式に発表されました!
前回の経験をさらに昇華させた今回の予備予選を経て、いよいよ10月の本選へ。進藤さんの音楽が、世界の舞台でどのように響くのか──今から楽しみでなりません。
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