今井理子・稲積陽菜・石田成香・岩井亜咲| ショパンコンクール予備予選2025に挑むピアニストを紹介!⑦

ショパンコンクール2025
  1. 今井理子|音楽とともに歩んだ日々 〜原点と転機〜
    1. 鍵盤との対話が始まった幼少期
    2. 音の奥行きと出会った“ロシアン・ピアノスクール”
    3. 学びの地はウィーンへ
    4. ショパンコンクール予備予選へ
    5. 主な受賞歴
  2. 稲積陽菜|ピアノに託す”人生” — 転機、葛藤、再生の物語
    1. おもちゃの鍵盤から始まった音楽の旅
    2. 中学時代、「ピアノに縛られていた」と語る過去
    3. はじめて「自分の意志」で決めた挑戦
    4. 舞台恐怖、コンクール棄権…一度“音楽から離れた”時間
    5. “第二の人生”の始まりと、ラ・ヴァルスへの思い
    6. 日本音コン二度目の挑戦──「今度こそ準備万端で」
    7. そして、ショパン・コンクール2025年予備予選へ
    8. 舞台裏のリアルをYouTubeで発信
    9. “Charm”──届けたい想い
  3. 石田成香| ピアノと生きる、その歩み
    1. 海外で出会った、音楽の“息吹”
    2. 奇跡の出会い──中村紘子氏との師弟関係
    3. モーツァルトに魅せられて、ウィーンへ
    4. 国際舞台でのご活躍と栄誉
    5. 逆境を乗り越えて──“暗黒の時期”とボディマッピング
    6. 共演、放送、リサイタル──多方面での活躍
    7. ピアノは、自己を映す“鏡”
  4. 岩井亜咲|透明感あふれるショパンの響きとともに
    1. 幼い頃からショパンに惹かれて
    2. ショパンとともに生きる
    3. ワルシャワでの経験、そして次なる挑戦
    4. これからの歩み

今井理子|音楽とともに歩んだ日々 〜原点と転機〜

今井 理子(いまい りこ)さんは、2001年に東京都で生まれ、わずか2歳でピアノに触れ始めました。母親が趣味でピアノを弾く傍ら、鍵盤のおもちゃを使って自然に音の世界へ入り込んでいったといいます。今井さん曰く、「気がついたら本物のピアノに座らせてもらっていました」と振り返るように、ピアノは言葉よりも先に身についていた“もう一つの言語”だったのかもしれません。

鷗友学園女子中学校を経て、東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校に進学。その後、東京藝術大学音楽学部器楽科ピアノ専攻に進み、江口玲氏に師事しています。在学中よりウィーン国立音楽大学(MDW)に留学し、アンナ・マリコヴァ氏のもとで研鑽を積んでいます。

ピアノ講師<br>ゆうき
ピアノ講師
ゆうき

↑の動画では今井さんのショパンを聴くことできます。静かな情熱と揺るぎない芯が感じらる演奏です。端正で明晰な輪郭の中に、音楽への深い集中と意志が宿っており、盛り上がりの場面ではしっかりとピアノを鳴らす豊かな響きが心に残ります。凛とした美しさに満ちた演奏です。

鍵盤との対話が始まった幼少期

4歳になる頃には、鶴岡佐代子先生の個人レッスンを受け始めました。最初の課題曲は童謡《ちょうちょ》。しかし今井さんは、楽譜通りに弾くだけでなく、自分で装飾をつけて弾いてしまい、注意を受けたという微笑ましいエピソードもあります。小さなころからすでに、彼女の中には“音を自分の言葉として表現する”感覚が芽生えていたのでしょう。

7歳のときに出場したピティナ・ピアノコンペティション(A2級)では全国大会に入選。とはいえ、本人にとっての興味の中心は、ステージではなく控室での即興演奏だったと語っています。ピアノとの向き合い方において、すでに“自由な対話”を大切にしていたことがうかがえます。

音の奥行きと出会った“ロシアン・ピアノスクール”

今井さんにとって大きな転機となったのが、中学生の頃に受講した「ロシアン・ピアノスクール in 東京」でした。2015・2017・2018・2019・2023年に参加し、セルゲイ・ドレンスキー、アンドレイ・ピサレフ、パーヴェル・ネルセシヤン各氏の指導を受けました。特にドレンスキー氏のレッスンで、「1音の重みを感じなさい」と言われた瞬間、それまでとはまったく異なる“音の世界”が広がったと語っています。

「そのとき、鍵盤がまるで石のように重く感じられて……。『あなたの音はもっと深くなる』という言葉をいただいた瞬間、ピアノを一生の仕事にしたいと覚悟しました」

また、イタリア・タレントミュージックマスターコースではアンナ・マリコヴァ氏に師事。その他にも多くのマスタークラスを受講し、世界的な指導者たちとの出会いを通じて、表現力を深めてきました。

これまでに師事したのは、鶴岡佐代子、秋山徹也、金子勝子、角野裕、江口玲の各氏です。

学びの地はウィーンへ

現在はウィーン国立音楽大学でアンナ・マリコヴァ氏のもと、更なる表現力と音楽の呼吸感を磨いています。今井さんは「ロシアで叩き込まれた“音の深さ”に、ウィーンで学ぶ“自然なフレージング”を掛け合わせたい」と語り、世界で活躍するピアニストとしての確かなビジョンが感じられます。

ショパンコンクール予備予選へ

2024年の第5回日本ショパンピアノコンクールで第2位を受賞したことにより、今井さんは2025年ショパン国際ピアノコンクール予備予選においてビデオ審査を免除され、出場権を獲得しました。前回2021年大会では、予備予選を通過し本大会にも出場した経験があります。

主な受賞歴

  • 第19回 ショパン国際ピアノコンクール in ASIA アジア大会 高校生部門 金賞
  • 第20回 大阪国際音楽コンクール リサイタル部門 第2位
  • 第21回 浜松国際ピアノアカデミーコンクール ディプロマ賞
  • 第4回 Shigeru Kawai 国際ピアノコンクール 第6位(2023年)
  • 第5回 日本ショパンピアノコンクール 第2位(2024年)
  • 第18回 ショパン国際ピアノコンクール 本大会出場(2021年)

今井理子さんの音楽には、幼少期の自由な遊び心と、思春期に出会った“音楽の本質”が息づいています。その深みある音色の背景には、こうした数々の“気づき”と“学び”の蓄積があるのです。


稲積陽菜|ピアノに託す”人生” — 転機、葛藤、再生の物語

2003年生まれのピアニスト・稲積陽菜さんは、第92回日本音楽コンクール第2位、第5回日本ショパンピアノコンクール第1位など、確かな実績を持つ若手ピアニストです。
現在は桐朋学園大学音楽部に特待生として在学しながら、本格的な演奏活動を展開。自身のYouTubeチャンネルでは飾らない語り口が話題を呼び、幅広いファンを惹きつけています。

ピアノ講師<br>ゆうき
ピアノ講師
ゆうき

上記、アンダンテ・スピアナートと大ポロネーズでは、混じりっけのない純粋な音の響きが心に染み入ります。稲積さんはまさにあるがまま、自分が感じたままを音に込めているのでしょう。それにより大変透き通った透明感のある響きが生まれています。

おもちゃの鍵盤から始まった音楽の旅

ピアノを始めたのは2〜3歳頃。きっかけは「おもちゃのピアノに夢中になっていた私を見て、親がピアノ教室に通わせてくれたこと」。初舞台で両手いっぱいの花束を抱えて笑う小さな自分の写真を見て、「いつかスタンド花をもらえるような演奏家になりたい」と夢を抱いたといいます。

中学時代、「ピアノに縛られていた」と語る過去

東洋英和女学院中学部では、周囲が勉学に励む中、「私はピアノで頑張らなくては」と自分を追い込み、知らず知らず音楽が“義務”のようになっていたという稲積さん。その後、桐朋女子高等学校音楽科に進学。ここで出会った恩師の一言が大きな転機となります。

はじめて「自分の意志」で決めた挑戦

高校1年で臨んだ全日本学生音楽コンクール。出場を迷った末、「全国大会に行けなかったら音楽高校をやめよう」と決意。自身で選び抜いたこの挑戦で全国第2位を獲得し、“覚悟を決めて飛び込んだことで、逆に気持ちが楽になった”と振り返ります。

舞台恐怖、コンクール棄権…一度“音楽から離れた”時間

2022年、同世代が全国の舞台で競う中、自分は“置いていかれている”感覚に陥り、焦りを募らせて再始動を決意。しかしその直後、体調とメンタルを崩し、舞台に立てない日々が続きました。コンクールを棄権した夏、彼女は「一度死んで、体だけが生きているような感覚だった」と語っています。

“第二の人生”の始まりと、ラ・ヴァルスへの思い

そんな折、彼女を支えたのがラヴェル《ラ・ヴァルス》でした。「この曲だけは私が世界一上手いと思っている」と語るほど大切なレパートリーで、デビュー・リサイタルの最後にも据えました。

日本音コン二度目の挑戦──「今度こそ準備万端で」

2023年、日本音楽コンクールに再び挑み、三次予選通過の知らせに涙。「本選に立つ資格がある状態で舞台に立てた。自分に勝てたと思えた」と語る稲積さんは、この年、見事第2位を受賞しました。

そして、ショパン・コンクール2025年予備予選へ

2024年、第5回日本ショパンピアノコンクールで第1位を獲得。この結果により、2025年のショパン国際ピアノコンクール予備予選ではビデオ審査が免除され、世界への挑戦権を手にしました。

舞台裏のリアルをYouTubeで発信

稲積さんのYouTubeチャンネルでは、「100日後ショパンコンクールに出場するピアニストによる質問コーナー」をはじめ、練習のリアルな姿や“本音トーク”を発信。演奏家としてだけでなく、同じように悩む学生たちへ等身大のメッセージを届けています。

“Charm”──届けたい想い

初のCD『Charm』には、「魅力」「魔法」「お守り」という3つの意味が込められており、「このCDが誰かの支えや勇気になれば」と語る稲積さん。音楽を通して、過去の自分と同じように揺れ動く誰かの心に寄り添いたい、そんな思いが詰まった一枚です。


石田成香| ピアノと生きる、その歩み

1997年6月2日生まれ。3歳よりピアノを始められた石田成香さんは、まさに音楽とともに育ちました。ピアノの先生であったお母様のもとで最初の手ほどきを受け、幼い頃から自然と鍵盤に親しんでこられました。食事のあとはすぐにピアノに向かわれていたというエピソードからも、音楽が日常そのものであったことが伝わってきます。

ピアノ講師<br>ゆうき
ピアノ講師
ゆうき

↑の動画は石田成香さんがオーストリアにてウィーンの室内管と共演した際の映像です。モーツァルトに魅せられウィーンに渡ったという石田さん。きらめく宝石のような音色で彩られ、繊細で輝きのある演奏です

海外で出会った、音楽の“息吹”

小学生時代に初めて参加されたヨーロッパでの音楽セミナーでは、街そのものに音楽が溶け込んでいる感覚に驚いたそうです。アメリカでは観客の熱狂的な反応に圧倒され、「音楽で自己表現する場は海外にある」と実感した経験が、その後の進路に大きな影響を与えました。

奇跡の出会い──中村紘子氏との師弟関係

15歳より約3年半にわたり、日本を代表するピアニスト・故中村紘子氏に師事しました。演奏を聴いた中村氏から「あなたの音はクリスタルのようで温かみがある」と評されたことは、今なお石田さんの原動力となっています。「ピアノの神様が指先に宿るような演奏家になってほしい」という言葉を胸に、音楽の道を歩み続けています。

モーツァルトに魅せられて、ウィーンへ

最も心を寄せている作曲家はモーツァルト。物語のように語りかけてくる音楽に惹かれ、自身の軽やかなタッチと共鳴する感覚があるとのこと。幼少期に初めて訪れたウィーンに「ここが好き」と直感し、留学先としての夢を描きました。現在、その夢は現実のものとなり、ウィーン国立音楽大学にて学士・修士課程を最優秀で修了し、ポストグラデュエート課程も修了しています。

国際舞台でのご活躍と栄誉

2009年、わずか12歳でロザリオ・マルチアーノ国際ピアノコンクール第2位を受賞されて以来、アメリカ、スペイン、中国、オーストリア、トルコなど、世界各地で数々の賞を受賞しています。

  • 2010年 ロシア音楽国際ピアノコンクール(アメリカ)第1位
  • 2011年 ニューオーリンズ国際ピアノコンクール 最年少入賞
  • 2014年 ヤマハ音楽奨学制度奨学生、『題名のない音楽会』出演
  • 2017年 ショパンフェスティバル(ポーランド)ソロリサイタル、第2回クリスティアン・トカチェフスキ国際コンクール第1位
  • 2019年 珠海(しゅかい)国際ピアノコンクール第1位、最優秀新曲賞
  • 2020年 モーツァルト国際コンクール 特別新曲賞
  • 2022年 イスタンブール国際ピアノコンクール第2位
  • 2023年 ベヒシュタイン・ブルックナーコンクール第1位およびブルックナー特別賞
  • 2024年 リヴォルノ国際ピアノコンクール第2位

逆境を乗り越えて──“暗黒の時期”とボディマッピング

2020年には重度の腱鞘炎を患い、1年間にわたり演奏活動を休止しました。演奏家にとっては大きな困難の中、石田さんは独学で解剖学を学び、身体の使い方を見直すことで「ボディマッピング」を取り入れたとのこと。この経験によって、音楽がより深化します。

共演、放送、リサイタル──多方面での活躍

2022〜2023年には、ウィーンのWebern Symphonie Orchesterとの共演や、オーストリアORF放送局による演奏収録、シンガポール交響楽団との共演など、国際的な活動を続けています。また、2023年にはブルックナーハウス(リンツ)にてデビューリサイタルを開催しました。

日本国内においても、佐川文庫でのリサイタル、eplus LIVING ROOM CAFE、淡路ピアニッシモ、山口日産、萩市での自主公演など、多彩な活動を展開しています。

ピアノは、自己を映す“鏡”

「ピアノはいつも自分を映し出してくれる存在です」と語る石田さん。ピアノを通して多くの文化、価値観、風土を感じてきた経験が、演奏に深みを与えています。世界の聴衆へ、日本の美しさと音楽の可能性を届ける石田成香さんの演奏には、自身の人生そのものが響いています。


岩井亜咲|透明感あふれるショパンの響きとともに

2000年生まれ。埼玉県三芳町出身。東京藝術大学附属音楽高校を経て東京藝大に進学し、現在は同大学大学院の修士課程でピアノを専攻しています。国内外のコンクールで受賞を重ね、ワルシャワで開催された第18回ショパン国際ピアノコンクールにも出場。繊細かつ芯のある音色が聴く人の心をとらえています。

ピアノ講師<br>ゆうき
ピアノ講師
ゆうき

↑の演奏は岩井さんの前回ショパンコンクールでの演奏です。優美で気品があり、慈しむように旋律を丁寧に歌い上げる姿が印象的でした。一音一音に込める想いと、誠実に作品に向き合う姿勢が、聴く人の心に静かに響いてきます。

幼い頃からショパンに惹かれて

ピアノとの出会いは4歳頃。両親が流していたショパンのワルツに合わせてキーボードで遊んでいた姿を見た母親が本格的なレッスンを勧めたのが始まりです。小学生時代にはPTNAなど国内コンクールへ挑戦し、「小さな舞台でも拍手の瞬間に心が躍った」とインタビューで語っています。

その後、東京藝術大学附属音楽高校を経て東京藝大に進学。現在は同大学大学院の修士課程で研鑽を積んでいます。

2019年には第37回かながわ音楽コンクール ピアノ部門で第1位を獲得し、ソロリサイタルデビューを果たしました。

2021年には第18回ショパン国際ピアノコンクールの本大会に出場し、大きな注目を集めます。

さらに2023年、ノアン・ショパン・フェスティバルのピアノコンクールにて審査員満場一致で第1位を受賞するなど、着実に評価を高めています。

ショパンとともに生きる

レパートリーの中心はショパン。特にマズルカやスケルツォなど、後期作品への深い共感を持って取り組まれています。藝大大学院では「ショパンのテンポ・ルバート解釈」を研究テーマとし、実演と理論の両面から音楽に向き合っています。

ワルシャワでの経験、そして次なる挑戦

2021年のショパン国際ピアノコンクール本大会出場時には、ステージに出る直前に心拍が高まり、拍手のタイミングや舞台の段差に戸惑いながらも、しっかりと自分の音楽を届けたといいます。「弾いている最中、ピアノが鳴っているのか不安だった」と語りつつも、「自分のやりたかった音楽はできた。今後の課題も得られた」と冷静に振り返りました。

当時はショパンの音楽に対してまだ漠然とした向き合い方をしていたものの、ワルシャワでの予備予選や本大会を経て、「余計な表現を加えず、素直に作品に寄り添うこと」が自分なりの答えだと感じるようになったそうです。精神的な緊張と向き合った経験もまた、舞台での安定につながったと語っています。

そして2025年、再びショパン国際ピアノコンクール予備予選への出場が決定。前回の経験を胸に、さらに深まった解釈とともに、新たな舞台へと挑みます。

これからの歩み

今後はショパンのマズルカ全曲録音を目標に、リサイタルやアウトリーチ演奏にも力を注いでいく予定です。「一音一音に物語を宿らせたい」と語る岩井さん。透明感のある響きと誠実な音楽性で、聴く人の心に静かに寄り添っていきます。

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