ピアノを習っていると、発表会やコンクールなど、人前で演奏する機会が出てきます。

ゆうき
本番になると、手が震えたり、頭が真っ白になったり…
そんな経験、ありませんか?
今回は、ピアノ指導歴10年以上の筆者が、自身の経験をもとに「本番での緊張を乗り越える方法」をご紹介します。緊張を“悪者”にしない考え方や、実際に行っている本番前のルーティンもお伝えします。
【1】そもそも論:本番の9割は練習で決まる
緊張対策を語る前に、まずお伝えしたいのは、
「練習こそが最大の緊張対策」であるということです。
どれだけ本番の心構えを整えても、そもそも練習が不足していれば、本番で思うようには弾けません。
つまり、本番を見据えた日々の練習こそが、最大の安心材料となるのです。
特に、テクニック的に「ここが弾けない」という箇所があるなら、
そこは曖昧にせず、徹底的に繰り返して体に覚え込ませることが大切です。
1回うまくいっただけでは不十分。不安なく何度も通せる状態まで仕上げましょう。
また、本番で暗譜する場合には、最低でも2週間前、理想は1ヶ月前には暗譜が完成していること。
暗譜が飛びやすいところは音名で歌えるようになるまで練習することも大事です。
【2】本番を想定して誰かに聞いてもらう
しっかりと練習をしておくことで、ある程度緊張は緩和できますが、
どんな名ピアニストであっても、本番では緊張するものです。
大切なのは、「緊張しないようにする」のではなく、
「緊張しても演奏できる状態にしておく」ことです。
本番の1ヶ月前になったら、ぜひ「誰かに聞いてもらう機会」を作りましょう。
たとえ家族や友人であっても、「いつもと違う誰か」に聴いてもらうだけで、
心拍数が上がったり、手が震えたりするものです。
そして、その軽い緊張状態の中で、どれだけ自分の力を出せるかを確認しておくことが大事です。
特に、初めての舞台や本番に慣れていない方にとっては、
小さな“人前経験”の積み重ねが、本番での安定感に直結します。
それから、誰かに聞いてもらうときには、是非自身の演奏を録音・録画してみてください。
そうすることで、本番までにいま自分がやるべきことが見えてくるはずです。

ゆうき
普段の練習よりも何倍もの経験値を得られるのが人前での演奏経験です。
是非本番前にいろいろな人に聞いてもらってください!
【3】緊張を味方にする
「うまく弾きたい」という気持ちは自然なものですが、
その裏には「失敗したくない」「恥をかきたくない」といった強い不安が潜んでいます。
実はこうした不安が強くなりすぎると、かえって本来の力が出せなくなる逆効果になることがあります。
これをスポーツ心理学では「チョーキング現象(Choking)」と呼びます。
チョーキングとは?
極度の緊張状態により、普段できていたことが本番でできなくなる現象です。
特に「ミスしたくない」「負けたくない」といった心理が強い人ほど起きやすいとされています。
スタンフォード大学などの研究では、失敗回避のプレッシャーが高まると、
集中力や判断力を担う「ワーキングメモリ」が妨げられることがわかっています。
緊張は悪者じゃない
「緊張=悪いもの」と思いがちですが、実は逆です。
緊張すると心拍数が上がり、脳や筋肉に血流が行き渡り、集中力や感覚が鋭くなるというポジティブな側面があります。
つまり、「今、自分は本気モードに入っているんだ」と受け止めることで、
緊張はパフォーマンス向上の味方に変わるのです。
緊張とうまく付き合う“思考の切り替え”
大事なのは、「緊張しないこと」ではなく、緊張した状態でも力を出せる考え方を持つことです。
たとえば本番前、こう自分に言い聞かせてみてください。
「心拍数が上がってきた…よし、これは身体が本気モードに入ってきた証拠だ」
このように、緊張を“挑戦の証”として前向きに受け止めるリフレーミングができると、
脳内でドーパミンが分泌され、集中力を高める前頭前野が活性化すると言われています。
ポイントは「楽しむ」気持ち
最後に大切なのは、「楽しもう」という気持ちです。
これは単なる精神論ではなく、脳の緊張を和らげる実践的な方法です。
プレッシャーに飲み込まれるのではなく、「楽しむ余裕」を持つことで、
むしろ緊張をうまく使いこなし、自然な演奏ができるようになるのです。
【4】本番前:失敗を想定し、紙やスマホのメモ帳に書き出す
筆者が実際に行っている緊張対策のひとつが、「失敗のシミュレーション」です。
本番での不安の多くは、「どこでどう失敗するかわからない」ことから生まれます。
だからこそ、「起こりそうな失敗」と「その対処法」をあらかじめメモ帳に書き出しておくことが、有効な心の準備になります。
「失敗のシミュレーション」のやり方
- 本番前に、紙やスマホのメモ帳に「想定される失敗」を書き出す
- それが実際に起きたときの具体的な対処法もセットで書く
例:
- 緊張して指が回らなくなった
→ 早くならないように、ゆっくり弾く意識を持つ - 難しいところで止まりそうになってしまった
→簡単な和音とメロディだけでもつなげられるようにしておく
→ 飛ばして次の小節に入るよう準備しておく - 左右のバランスが崩れた
→ 一瞬片手だけにして立て直すなど、最小限の修正で流れを保つ方法を考えておく
このように、あらかじめ失敗を想定しておくことで、
「失敗しても大丈夫」という心の準備が整い、本番でも冷静に対応しやすくなります。
これは一種の“心の保険”です。
ぜひ一度、試してみてください。「失敗しても大丈夫」な感覚を事前に作っておくことが、本番での安心感につながります。
【5】本番では、すべてを受け入れる覚悟を
とはいえどれだけ準備をしても、本番は思い通りにならないこともあります。
だからこそ、最後に必要なのは「手放す勇気」です。
本番では、「完璧に弾こう」「失敗したくない」「間違えたらどうしよう」といった気持ちがよぎりがちですが、
それらを一度手放して、こう考えてみてください。
「ありのままの自分で勝負する。それが今の私にできるすべてだから」
この「手放し」の姿勢は、仏教にも通じる考え方です。
仏教では、「執着が苦しみを生む」とされます。演奏も同じで、結果や評価に執着するほど、
身体が硬くなり、本来の表現力を発揮できなくなってしまうのです。
だからこそ、本番では
「今この瞬間に集中し、あるがままの自分を受け入れる」
という姿勢が、むしろ良い演奏につながると言われています。
「手放す」とは、あきらめて投げ出すことではありません。
それは、期待や恐れから自由になるための“前向きな手放し”なのです。
本番で力を発揮するコツは、
「出たものを受け入れる覚悟」です。
最後に
ここまで本番の緊張対策についてご紹介してきましたが、
どんな準備も、どんなマインドセットも、あなたの「音楽を届けたい」という気持ちがあってこそ活きてきます。
たとえ思い通りにいかなかったとしても、
あなたが積み重ねてきた努力は、必ず次につながる財産になります。
どうか、本番の舞台では「今の自分」を信じて、心から演奏を楽しんでください。
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